- ハイドロリリース(筋膜リリース)とは
- ハイドロリリース(筋膜リリース)の対象となる病気
- ハイドロリリース(筋膜リリース)で期待できる効果
- ハイドロリリース(筋膜リリース)の流れ
- ハイドロリリース(筋膜リリース)の費用
- ハイドロリリース(筋膜リリース)の注意事項・副作用
- ハイドロリリース(筋膜リリース)のよくある質問
ハイドロリリース(筋膜リリース)とは
ハイドロリリースとは、超音波画像(エコー)で確認しながら、生理食塩水などの液体を注射し、くっついてしまった筋膜や神経周囲の固くなった組織を剥がす治療法です。
従来の痛み止めや麻酔薬による注射とは異なり、ハイドロリリースは癒着そのものを物理的に剥がすことを目的としています。
そのため、痛みの根本原因にアプローチできると考えられています。
ハイドロリリースの効果として、以下のような点が挙げられます。
- 痛みの軽減・解消: 筋膜や神経の固着が原因となる慢性的な痛み(肩こり、腰痛、関節痛など)に効果が期待できます。
- 可動域の改善: 筋膜の滑りが良くなることで、関節の動きがスムーズになり、体が動かしやすくなります。
- しびれの改善: 神経周囲の癒着を剥がすことで、神経の圧迫が軽減され、しびれの改善が期待できます。
- こりや突っ張り感の解消: 筋膜の柔軟性が回復することで、筋肉のこりや体の突っ張り感が軽減されます。
ハイドロリリースでは、主に生理食塩水とごく少量の麻酔薬・鎮痛薬を使用するため、副作用のリスクが低いとされています。また、エコーで患部を確認しながら注射するため、安全性が高いと考えられています。
ハイドロリリースの手技は以下のようになります。
- 診察: 医師が患者の痛みの状態などを確認します。
- 穿刺・注入: 超音波画像で患部の状態を確認しながら、細い注射針を用いて生理食塩水などの液体を目的の部位に注入します。
- 剥離: 注入された液体によって、癒着した筋膜や組織が物理的に剥がされます。
ハイドロリリースは、注射による治療のため、入院の必要はなく、日帰りで受けることができます。
効果には個人差がありますが、1回の注射で効果を実感できる方もいますが、他の治療と組み合わせて行うこともあります。
ただし、癒着は生活習慣や日常的な動作によって繰り返される可能性があるため、ハイドロリリース後もストレッチや姿勢改善などのリハビリテーションに取り組むことが重要です。
筋膜とは
筋膜は、私たちの体がスムーズに動いたりするために非常に重要な組織です。しかし、同じ姿勢での長時間作業、運動不足、ストレス、怪我などによって、筋膜が癒着したり、硬くなったりすることがあります。
筋膜の機能が低下すると、痛み、こり、可動域の制限、姿勢の悪化など様々な体の不調を引き起こす可能性があります。
ハイドロリリース(筋膜リリース)と従来の局所麻酔薬注射の違い
項目 | ハイドロリリース(筋膜リリース) | ブロック注射 |
---|---|---|
主な目的 | 癒着した筋膜や神経周囲組織(ファシア)を剥がし、組織間の滑りを改善することで、痛みにアプローチします。可動域の改善、しびれの軽減なども目的とします。 | 神経の伝達を一時的に遮断したり、炎症を抑えたりすることで、痛みを緩和することを主な目的としています。 |
使用する薬剤 | 主に生理食塩水。ごく少量の局所麻酔薬を添加する場合もあります。 | 局所麻酔薬(リドカインなど)単独、またはステロイドなどの抗炎症薬と併用することが多い。 |
作用機序 | 注射された液体の物理的な力によって、癒着した組織を剥がします。痛みの原因となっている組織の伸張性や滑走性を改善します。 | 局所麻酔薬が神経に作用し、痛みの信号が脳に伝わるのを一時的にブロックします。抗炎症薬は炎症を抑えることで痛みを軽減します。 |
効果の持続性 | 癒着そのものを剥がすため、薬剤の効果が切れた後も数日~数週間と比較的効果が持続しやすい傾向にあります。 | 薬剤の効果が持続する時間が主に作用する時間であるが、薬剤作用時間が切れても効果が持続する人もいます。 |
エコーガイド | リアルタイムの超音波画像(エコー)で患部の状態を確認しながら、目的の部位に注射を行います。 | 触診およびエコーを使用する場合が多いです。 |
副作用のリスク | 生理食塩水が主成分であるため、局所麻酔薬単独の場合と比較して、アレルギー反応や全身性の副作用のリスクは低いです。 | 局所麻酔薬によるアレルギー反応、血管迷走神経反射、神経損傷などのリスクが、ハイドロリリースと比較してわずかに高い可能性があります。 |
ハイドロリリースは、癒着という痛みの根本原因にアプローチし、組織の動きを改善することを目的とした治療法です。一方、従来の局所麻酔薬注射は、神経の働きを一時的に抑えることで痛みを緩和することを主な目的としています。
どちらの治療法が適しているかは、患者さんの症状や状態によって異なります。
お気軽に当院へご相談ください。
ハイドロリリース(筋膜リリース)の対象となる病気
ハイドロリリース(筋膜リリース)は、筋膜や神経周囲組織の癒着が原因となる様々な病気や症状に対して、治療の選択肢となる可能性があります。主な対象となる病気や症状は以下の通りです。
慢性的な痛み
- 肩こり、頸部痛: 長時間のデスクワークやPC作業やスマホ使いすぎなどによる筋膜の癒着が原因となることがあります。
- 腰痛: 筋膜の柔軟性低下や腰部の筋肉、靭帯との癒着が関与する場合があります。
- 関節痛:
変形性関節症: 関節周囲の筋膜や靭帯の癒着が痛みを増強させることがあります。
五十肩(肩関節周囲炎): 関節包や周囲の組織、筋膜の癒着が可動域制限と痛みを引き起こします。
テニス肘・ゴルフ肘: 肘周囲の腱や筋膜の炎症、癒着による痛み。
神経痛・しびれ
- 手根管症候群: 手首の神経が圧迫されることで、手指のしびれや痛みが生じますが、周囲の筋膜の癒着が関与することもあります。
- 足根管症候群: 足首の神経が圧迫されることで、足裏のしびれや痛みが生じますが、周囲の筋膜の癒着が関与することもあります。
運動機能障害
- 関節可動域制限: 筋膜の癒着や柔軟性低下により、関節の動きが悪くなることがあります。
- 筋肉の張り・こわばり: 筋膜の柔軟性低下や血行不良により、筋肉が硬く感じることがあります。
- スポーツ障害: 筋肉や腱、靭帯周囲の筋膜の異常がパフォーマンス低下や痛みの原因となることがあります。
その他
- 外傷後の痛み: 怪我の治癒過程で筋膜や周囲組織が癒着し、慢性的な痛みが残ることがあります。
重要な注意点
ハイドロリリースは、これらの病気や症状の全てに効果があるわけではありません。
ハイドロリリース(筋膜リリース)で期待できる効果
可動域の改善
- 関節の動きの改善: 筋膜の滑りが良くなることで、肩、首、腰、股関節、膝など、全身の関節の動きがスムーズになり、可動域が拡大することが期待できます。
- 体の柔軟性の向上: 筋膜の柔軟性が回復することで、前屈や後屈、回旋などの動作が楽になります。
しびれの改善
- 神経圧迫の軽減: 神経周囲の癒着を剥がすことで、神経の圧迫が軽減され、手足のしびれが改善することが期待できます。
筋肉の張り・こわばりの緩和
- 筋肉の柔軟性回復: 筋膜の柔軟性が回復することで、筋肉の過度な緊張が和らぎ、慢性的な張りやこわばりが軽減されます。
姿勢の改善
- 体のバランスの調整: 筋膜のバランスが整うことで、不良姿勢が改善されることがあります。
日常生活動作の改善
上記の痛みの軽減や可動域の改善により、立つ、座る、歩く、手を挙げるなどの日常生活動作が楽に行えるようになります。
薬物依存の軽減
痛みの根本原因にアプローチすることで、痛み止めの使用頻度や量を減らすことができる可能性があります。
ハイドロリリース(筋膜リリース)の流れ
1 診察
診察、レントゲン検査、エコー検査、CT、MRI検査などを用いて病変の特定を行います。
お薬による治療、リハビリテーションなどを用いて治療を行います。
その後、経過にてハイドロリリース(筋膜リリース)の適応と判断した場合、治療法について説明を行います。
治療を受けることに同意したら、同意書にサインをしていただきます。
2治療準備
治療部位を特定し、消毒します。
患者さんは、楽な体勢でベッドに横になるか、座ります。
エコーを準備し、患部の状態がリアルタイムで確認できるようにします。
3穿刺・注入
医師は、エコーで患部の筋膜や神経、血管の位置、癒着の状態などを確認しながら、注射針を刺入する部位を決定します。
細い注射針を用いて、生理食塩水などの液体を目的の部位にゆっくりと注入していきます。
注入時には、エコーで液体が組織間を満たし、癒着が剥がれていく様子を確認しながら行います。
必要に応じて、ごく少量の局所麻酔薬や鎮痛薬を同時に注入することもあります。
注入する液体の量や注射部位は、患者さんの状態や症状によって異なります。
4治療後
注射部位を保護するためのテープやガーゼを貼ることがあります。
入浴は翌日からにしていただき、運動は翌日から体調に合わせておこなってください。
まれに、注射部位に軽い痛みや腫れ、内出血などが起こることがありますが、通常は数日で自然に改善します。
治療効果や経過を確認するため、次回の診察日を受付で予約します。
5経過観察・リハビリテーション
治療の効果や症状の変化を医師が定期的に確認します。
必要に応じて、痛みの再発予防や機能改善のためのリハビリテーションが行われます。
治療の効果を見ながら、追加の治療を行うかどうかを判断します。
ハイドロリリース(筋膜リリース)の費用
部位、痛みの性状、患者さんの健康保険内容によって保険適用となる場合と自費診療となる場合があります。
そのため、費用は医療機関や治療内容によって大きく異なります。
保険適用となる場合
1か所の場合、初回は保険適用となる場合が多いです。
自己負担額は、1割負担の方で数百円、3割負担の方で2,000円程度が目安となりますが、診察料や他の検査費用などが別途かかる場合があります。
自費診療となる場合(自費になる場合は必ず事前にお知らせいたします。)
同時に2か所以上や2回目以降の治療など、保険適用とならない症状の場合は自費診療となります。
費用は部位、施注部位の数などによって大きく異なり、1ヶ所あたり3,000円~5000円(税別)と幅広くなります。
注射する部位数が増えるごとに上記料金が発生します。
ハイドロリリース(筋膜リリース)の注意事項・副作用
ハイドロリリース(筋膜リリース)は安全な治療法の一つです。
しかしながら、いくつかの注意事項と起こりうる可能性のある副作用があります。
注意事項
- 治療後の安静: 治療後、数時間は注射部位を強く揉んだり、圧迫したりするのを避けてください。激しい運動も翌日からのしてください。
- 入浴: 当日の入浴はシャワーにしてください。翌日からは入浴可能です。
- 飲酒: 治療当日の飲酒はしないでください。
- 基礎疾患: 出血傾向のある方、感染症のある方、妊娠中または授乳中の方などは、事前に必ず診察時にお申し出てください。
- アレルギー: 使用する薬剤(生理食塩水、局所麻酔薬など)にアレルギーのある方は、必ず事前にお申し出ください。
- 効果の個人差: ハイドロリリースの効果には個人差があり、すぐに効果を実感できない場合や、数回の治療が必要となる場合があります。
- リハビリテーションの重要性: 治療効果を持続させ、再癒着を防ぐためには、医師や理学療法士の指示に従い、適切なストレッチや運動療法などのリハビリテーションを継続することが重要です。
起こりうる可能性のある副作用
ほとんどの場合、軽微で一時的なものですが、以下のような副作用が起こる可能性があります。
- 注射部位の痛み: 注射針を刺した部位に、一時的な痛みや圧痛が残ることがあります。通常は数日以内に自然に改善します。
- 腫れ・内出血: 注射部位に、わずかな腫れや内出血が生じることがあります。これも通常は数日から1週間程度で自然に吸収されます。
- 感染: まれに、注射部位から細菌感染を起こす可能性があります。もし、注射部位の赤み、腫れ、熱感、強い痛みなどが続く場合は、当院を早めに受診してください。
- 神経損傷: ごくまれに、注射針が神経に触れてしまい、一時的なしびれや麻痺が生じることがあります。通常は自然に回復しますが、症状が続く場合は医師に相談してください。
- 血管迷走神経反射: 注射による緊張や痛みで、一時的に血圧が低下し、めまいや気分が悪くなることがあります。治療中に気分が悪くなった場合は、すぐに当院職員に伝えてください。
- 薬剤によるアレルギー反応: 使用する薬剤に対して、まれにアレルギー反応(発疹、かゆみなど)が起こることがあります。
- 効果不十分: 全ての患者さんに効果があるわけではなく、期待した効果が得られない場合もあります。
ハイドロリリース(筋膜リリース)のよくある質問
ハイドロリリースは痛いですか?
注射の際にチクッとした痛みを感じることがありますが、使用する針は非常に細いため、一般的には我慢できる程度の痛みです。注入する液体の量や部位によっては、鈍いような感覚や圧迫感を感じることもあります。痛みに弱い方には、局所麻酔を併用するなど、痛みを軽減する配慮がされる場合があります。
ハイドロリリースの効果はすぐに現れますか?
効果の現れ方には個人差があります。直後から痛みが軽減したり、動きやすさを感じたりする方もいれば、数日かけて徐々に効果が現れる方もいます。また、複数回の治療が必要となる場合もあります。
ハイドロリリースは何回くらい治療が必要ですか?
症状や状態によって必要な治療回数は異なります。1回の治療で効果を実感できる方もいますが、慢性的な症状の場合や癒着が強い場合は、数回程度の治療を継続することが推奨されることがあります。患者さんの状態を評価しながら、相談して決めていきます。
ハイドロリリースは保険適用になりますか?
初回は保険適用となる場合が多いですが、2回目以降や症状によっては自費診療となる場合があります。詳しくは「ハイドロリリース(筋膜リリース)の費用」の欄をご覧ください。
ハイドロリリースとリハビリテーションの違いは何ですか?
リハビリテーションは、筋肉や筋膜を外部から緩めることを目的としていますが、ハイドロリリースは、注射によって癒着した組織を物理的に剥がすことを目的としています。より深部の癒着に直接アプローチできると考えられています。
リハビリもハイドロリリースの効果を持続させたり、再癒着を防ぐために重要な役割を果たします。
それぞれに利点があります。
ハイドロリリースに副作用はありますか?
一般的には副作用のリスクは低いとされていますが、注射部位の痛みや腫れ、内出血などが起こる可能性があります。まれに、感染や神経損傷などの合併症が報告されています。
ハイドロリリースを受けた後、すぐに運動しても大丈夫ですか?
治療後数時間は、注射部位を安静に保つことが推奨されます。当日は激しい運動は控え、翌日から徐々に体を動かすようにしてください。
どのような症状にハイドロリリースが効果がありますか?
肩こり、腰痛、関節痛、神経痛、筋肉の張りなど、筋膜や神経周囲組織の癒着が関与する様々な症状に効果が期待できます。ただし、痛みの原因が特定できない場合や、他の原因による痛みなどには効果がないこともあります。
ハイドロリリースを受ける前に準備しておくことはありますか?
特に準備が必要なことはありません。
既往歴、服用中の薬などを正確に事前問診に記入をお願いします。