- 手根管症候群とは
- 手根管症候群の原因
- 手根管症候群になりやすい人
- 手根管症候群の初期症状
- 手根管症候群の検査・診断
- 手根管症候群の治療
- 手根管症候群は自力で治せる?
- 手根管症候群でやってはいけないこと
手根管症候群とは
手根管症候群は、手首の手のひら側にある「手根管」と呼ばれるトンネル状の構造の中で、正中神経が圧迫されることで生じる病気です。この手根管には、正中神経とたくさんの屈筋腱(手首を曲げるすじ)が通っています。
主な症状は、母指から薬指の半分(親指側)にかけてのしびれや痛みです。
特に夜間や明け方に症状が悪化しやすく、手を振ったり、指を曲げ伸ばしすることで楽になることがあります。進行すると、母指の付け根の筋肉(母指球筋)が痩せ、物がつまみにくくなるなどの運動障害も現れることがあります。
手根管症候群とばね指の違い
手根管症候群とばね指は、どちらも手の症状を引き起こす疾患ですが、発生の仕方と症状の現れ方が異なります。
手根管症候群とばね指は、どちらも手指の痛みや動かしにくさを伴いますが、原因と症状の部位・性質が異なります。
原因の場所とメカニズム
手根管症候群
手首の手根管というトンネル内で正中神経が圧迫されることで起こる神経障害です。
ばね指
指の腱と腱鞘の摩擦による腱鞘の炎症が原因で、腱の滑動障害が起こります。
症状の現れ方
手根管症候群
主にしびれと痛みが中心です。特に夜間や明け方にしびれが悪化し、手を振ると楽になる症状が見られます。しびれる指は、親指から薬指の親指側半分に多く見られ、小指には症状が出ないことが多いです。
進行すると母指の付け根の筋肉の萎縮により、細かい動作が困難になります。
ばね指
主に指の付け根の痛みと指がカクっとすることが特徴です。
しびれは通常ありませんが、痛みや引っかかりが強いため、指の曲げ伸ばしがスムーズにできません。
手根管症候群の原因
手根管症候群は、手首の正中神経が圧迫されることで生じる疾患ですが、その原因は多岐にわたります。最も多いのは、特定の原因が特定できない「特発性」と言われています。
しかし、以下のような要因が発症に関与すると考えられています。
手の酷使
パソコン作業、裁縫、料理、楽器演奏など、手首や指を繰り返し使う作業が多い方に発生しやすい可能性があります。腱鞘が肥厚したり、腱周囲の組織に炎症が生じ、手根管内の圧力が上昇する可能性と考えられます。
全身疾患
関節リウマチ、糖尿病、甲状腺機能低下症、透析を受けている方などは、炎症や代謝異常、アミロイド沈着などにより手根管内の環境が悪化しやすく、発症リスクが高まります。
外傷
手首の骨折や脱臼など、手根管周囲の外傷が原因で神経が圧迫されることもあります。
腫瘍・腫瘤
非常にまれに、手根管内にできたガングリオンなどの良性腫瘍や腫瘤が神経を圧迫することもあります。
これらの原因は一つだけでなく、複数の要因が絡み合って発症することも少なくありません。
自己判断で薬を服用したり、放置したりすると、症状が悪化し、神経の損傷が不可逆的になる可能性も指摘されています。
手のしびれや痛みが続く場合は、整形外科を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。
ストレスで
手根管症候群になる?
ストレスが直接的に手根管症候群の原因になるという直接的な医学的根拠は確立されていませんが、ストレスが身体に与える影響は無視できません。
強いストレスは、身体の様々な反応を引き起こし、既存の症状を悪化させたり、痛みの感じ方を変えたりする可能性があります。
例えば、ストレスによって筋肉が緊張しやすくなったり、血行が悪くなったりすることで、手根管内に間接的な影響を与える可能性は考えられます。また、ストレスからくる不眠や不安が、手根管症候群の症状であるしびれや痛みをより強く感じさせる要因となる可能性はあります。
手根管症候群の症状は、日常生活に大きな支障をきたし、不安やストレスをさらに増幅させる悪循環に陥ることもあります。
手根管症候群は、正中神経の物理的な圧迫が原因で起こる病気であり、適切な診断と治療が非常に重要です。
しびれや痛みが続く場合は、自己判断せず、整形外科を受診してください。
手根管症候群の原因は
スマホ?
スマートフォンの使用は、手根管症候群の一因となる可能性が指摘されています。
手根管症候群の直接的な原因は、手首の手根管内で正中神経が圧迫されることですが、スマートフォンの操作、特に長時間の使用は、この圧迫を助長する要因となり得ます。
具体的な理由としては、以下のような点が挙げられます。
スマートフォンを操作する際、多くの場合、片手で持ったり、指をフリック入力のために不自然な角度で曲げ伸ばししたりします。特に、親指での操作が中心の場合、手首を常に曲げた状態や捻った状態で保持することになり、手根管内の圧力が上昇する要因のなる可能性があります。
フリック入力やゲームなどで、特定の指や手首を繰り返し動かすや長時間の反復動作により、腱を包む腱鞘が厚くなることがあり、これも神経圧迫の原因になる可能性があります。
ただし、スマートフォンが手根管症候群の唯一の原因であるわけではありません。
加齢、ホルモンバランスの変化(妊娠・出産、更年期)、関節リウマチや糖尿病などの全身疾患、過去の手首の外傷なども、手根管症候群の重要な原因となります。
しびれや痛みが続く場合は、スマートフォンとの関連性を疑うだけでなく、必ず整形外科を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
手根管症候群になりやすい人
- 妊娠・出産期の女性
- 更年期の女性
- 手や指をよく使う仕事の人(例:パソコン作業者、美容師、料理人、裁縫師)
- 透析を受けている人
- 関節リウマチの人
- 糖尿病の人
- 甲状腺機能低下症の人
- 手首を骨折したことがある人
- 手首に腫瘍やガングリオンがある人(まれ)
- 高齢者
手根管症候群の初期症状
- 指のしびれ(特に小指以外のしびれ)
- 夜中や明け方に指がジンジンする
- 手のひらがなんか変な感じ
- しびれで目が覚める
- 手を振るとしびれが少しマシになる
- 細かい作業がしにくい
- ペットボトルの蓋が開けにくい
- ボタンを留めるのが難しい
- ペンを握りにくい
- 箸の持ち方がおかしいと感じる
- 指先の感覚が鈍い
- 指がむくんでいる感じ
- 手首に軽い痛みがある
- 指が冷たく感じる
- ものをよく落とす
手根管症候群の検査・診断
手のしびれは手根管だけで起こるわけではありません。そのため、首やそのほかの部位に病変もしくは複数の病変が潜んでいないかを診察しながらどのような検査を行うかを決めていきます。
感覚検査
指先の感覚が鈍くなっていないか、触覚や痛覚などを確認します。
筋力検査
親指の動き(特に外転や対立運動)に弱さがないかを確認します。
握力検査も行う場合があります。
レントゲン検査(X線検査)
手根管症候群自体は神経の病気なので、レントゲンに直接写るわけではありません。しかし、手首の骨折や変形、関節炎など、しびれを引き起こす可能性のある他の病気がないかを確認するために行われることがあります。
首のレントゲンや手首の骨折の既往について検査を行うことが多くなります。
より専門的な検査(神経伝導速度検査など)について
上記の診察で手根管症候群が強く疑われる場合や、診断を確定する必要がある場合、また他の神経疾患との鑑別が必要な場合には、以下のような、より専門的な検査が必要になることがあります。
神経伝導速度検査(NCV)
この検査は、神経が電気信号を伝える速度を測定するものです。
筋電図検査(EMG)
神経伝導速度検査と同時に行われることもあります。筋肉に針を刺して電気活動を記録し、神経から筋肉への伝達に異常がないか、筋肉自体に問題がないかを評価します。
当院では上記の伝導速度検査を常備していないため、この検査が必要な場合は、提携している病院や専門の検査機関への紹介となります。
しびれや痛みは手根管症候群だけでなく、首の病気や他の神経の病気でも起こることがあります。自己判断せず、まずは整形外科を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。
手根管症候群の治療
手首の安静と固定
手首に負担がかかる動きを避けたり、サポーターや装具を使って手首を固定したりします。特に、寝ている間のしびれが強い場合は、夜間に装具を着けることで、手首が曲がりすぎて神経の圧迫を和らげます。
薬物療法
神経の回復を助ける製剤や、炎症を抑えて痛みを和らげる消炎鎮痛剤などが処方されます。
注射
炎症が強い場合や、内服薬で効果が不十分な場合は、手根管内にステロイド薬を注射することがあります。ステロイドには抗炎症作用があり、神経の周りの腫れを抑えて圧迫を和らげます。しびれや痛みを速やかに改善する効果が期待できます。
これらの治療は、手根管内の圧力を減らし、神経への負担を軽減することを目的としています。症状が改善しない場合や、しびれが強くなったり、親指の付け根の筋肉が痩せてきたりするなど、症状が進行する場合は、手術が検討されることもあります。症状が軽いうちであれば、これらの治療で多くの方が改善に向かいます。早めの整形外科専門医受診をお勧めします。
手根管症候群にストレッチは良い?
手根管症候群に対するストレッチは、症状の緩和に役立つ可能性があります。
具体的には、手首や指、前腕の筋肉の緊張を和らげたり、正中神経の滑走を促したりするストレッチが推奨されることがあります。例えば、手首をそらしたり、指を広げたりする動きは、手根管内の圧力を一時的に軽減し、神経の動きを良くする効果が期待できます。
ただし、ストレッチはあくまで補助的なものであり、全てのケースに有効とは限りません。 自己判断でのストレッチは、かえって悪化させてしまう可能性もあります。
しびれや痛みが続く場合は、自己判断でストレッチを行う前に、必ず整形外科を受診してください。 整形外科医の診断のもと、理学療法士によるストレッチ指導を受けることが重要です。
手根管症候群の湿布は
どこに貼る?
手根管症候群の場合、湿布は主に手首の手のひら側に貼ります。
具体的には、手首の真ん中あたりで、手のひらから少し手首側にかかるように貼るのが一般的です。この場所には、手根管というトンネルがあり、その中を正中神経が通っています。湿布の目的は、この部分の炎症を抑えたり、痛みを和らげたりすることです。
痛みやしびれが強く感じる部分に直接貼ることで、湿布に含まれる鎮痛成分が局所的に作用し、症状の緩和が期待できます。
湿布は手首を動かすと剥がれやすいので、湿布の上からサポーターやネット包帯などで固定すると、より効果的で剥がれにくくなります。
それでも剝がれてしまう場合は塗り薬を使うこともあります。
症状が続く場合は、必ず整形外科を受診して、適切な診断と治療を受けるようにしてください。
手根管症候群は自力で治せる?
手根管症候群は、自力で完全に治すのは難しい病気です。
初期の軽度な症状であれば、安静にしたり、生活習慣を見直すことで一時的に症状が和らぐこともありますが、神経の圧迫が原因であるため、根本的な解決にはなりません。放置すると症状が悪化し、親指の付け根の筋肉が痩せてしまったり、感覚がかなり低下してしまう可能性もあります。
しびれや痛みが続く場合は、自己判断せず、整形外科を受診してください。
専門医の診断のもと、適切な治療を受けることで、症状の改善や進行の予防につながります。早めに受診することで、回復も早まり、重症化を防ぐ可能性が高まります。
手根管症候群で
やってはいけないこと
手根管症候群と診断されたら、症状を悪化させないために、以下の行動は控えましょう。
- 手首を繰り返し使う動作や不自然な姿勢: パソコンやスマホの長時間操作、重い物を持つ、タオルを絞るなど、手首に負担がかかる作業は避けるか、休憩をこまめに取りましょう。
- 手首を強く曲げたり、反らせたりするストレッチやマッサージ: 無理な自己判断でのストレッチは神経への圧迫を強め、症状を悪化させる可能性があります。
- 痛みを我慢して無理に手を使い続ける: 無理をすると再発したり、悪化する可能性が高くなってしまいます。
しびれや痛みが続く場合は、自己判断せず、整形外科を受診してください。
適切な診断と治療を受けることが、症状改善への第一歩です。
放置すると、神経の損傷が進行し、回復が難しくなることもあります。