テニス肘の解説:テニスをしない人にも忍び寄る痛み
1. 「テニス肘」とは?—病態の基礎知識
テニス肘は、医学的には上腕骨外側上顆炎と呼ばれるケガの名前です。
この名前は、病気の原因と痛む部位を正確に示しています。
「上腕骨」は腕の骨、「外側上顆」は肘の外側の骨の出っ張った部分を指します。
そして、「炎」はその部分に炎症が起きている状態を示します。
具体的には、肘の外側にある腕の骨の外側に付着している、手首を反らせたり
指を伸ばしたりする筋肉(短橈側手根伸筋など)の腱に、微細な損傷や炎症が起きることで痛みが発生します。
テニス選手に多く見られたことからこの名称がついていますが
実際にはテニスなどの特定のスポーツをしていない患者さんにも多く
日常的に手首や指を酷使する動作が多い人に発症します。
最も多いのは、40代から60代の方で、家事や仕事で手を使う機会が多いことが関連していると考えられています。
2. なぜ起こるのか?—主な原因とメカニズム
テニス肘の根本的な原因は、「使いすぎ(オーバーユース)」
とそれに伴う「負荷のかかりすぎ」です。
日常生活における主な原因
テニス肘を発症する人の多くは、スポーツ以外の以下のような日常動作で肘に過度な負担をかけています。
家事: 雑巾やタオルを絞る動作、料理の際の重い鍋やフライパンを持つ動作、庭仕事でのハサミやシャベルの使用。
仕事: パソコンのマウスやキーボードを長時間操作する(手首を反らした状態が続く)、重い荷物を繰り返し持ち運ぶ、ドライバーや工具を扱う作業。
趣味: 編み物、ギターなどの楽器演奏、書道など、手首や指を繊細かつ集中的に使う活動。
これらの動作では、手首を安定させたり反らせたりするために、肘の外側についている筋肉が繰り返し強く収縮します。
結果として。筋肉の付着部である腱に小さな傷がついてしまい、修復が追いつかずに慢性的な炎症や変性を引き起こします。
スポーツにおける原因(テニスの場合)
テニス選手の場合、特にバックハンドで手首を過度に使いすぎたり
打ち終わりの瞬間に手首がグラついたり(不安定になったり)することで肘に強い衝撃が伝わり
発症することが多いです。
3. どのような症状が出るのか?—痛み方と特徴的なサイン
テニス肘の症状は、肘の外側が痛むという点が最大の特徴ですが、特に以下のような動作で痛みが強くなるのが一般的です。
痛みの特徴
痛む場所: 肘の外側にある骨の出っ張りまわりを押さえると痛みます。
痛みの性質:物を持ち上げる時(特に手のひらを下にして持ちあげるとき)。
雑巾やタオルを絞る動作。
ドアノブを回す動作。
缶の蓋などを開ける動作。
握手をする際に、手を強く握る動作。
安静時の痛み: 初期段階では安静にしていれば痛みはありませんが、進行すると安静時にも鈍い痛みを伴うことがあります。
診断を助ける「テスト法」—セルフチェックのサイン
整形外科では、テニス肘かどうかを判断するために、以下のような誘発テストを行います。自宅でも簡単にチェックできるサインです。
トムセン・テスト (Thomsen Test):
自分で手首を手のひら側に曲げるように力を加える。
それに抵抗して手首を反らせる(伸展させる)。
この時、肘の外側に強い痛みが走れば陽性となり、テニス肘の可能性が高いとされています。
チェア・テスト (Chair Test):
手のひらを下にして、椅子(軽いもの)の背もたれを掴んで持ち上げようとする。
この時、肘の外側に痛みが走れば陽性。
4. 治療の進め方—治癒へのロードマップ
テニス肘の治療は、原則として保存療法(手術をしない治療)が中心となります。
ほとんどの場合、適切な保存療法によって症状の改善が見込めます。
治療の3つの柱
安静と負荷の軽減:
最も重要なのは、痛みを引き起こす動作をできる限り控えることです。
サポーター(バンド)の利用:
肘から少し下に専用のバンドを装着することで、腱の付着部にかかる負担を軽減し、痛みを和らげる効果があります。
薬物療法と物理療法:
非ステロイド性消炎鎮痛剤(内服薬や外用薬)を使用して、炎症と痛みを抑えます。
痛みが強い場合や慢性化している場合
特殊な機器をもちいたリハビリや近年注目されているPRP(多血小板血漿)療法などを検討します。
温熱療法、超音波治療などの物理療法も、血流改善や痛みの緩和に有効です。
5.手術の適用
保存療法を数ヶ月以上続けても症状が改善しない、日常生活に大きな支障をきたしているという治りにくいケースでは、手術が検討されます。
手術では、傷ついた腱の一部を切除・修復したり、腱の緊張を和らげる処置などが行われます。
6. 予防とセルフケアの重要性
テニス肘は、使いすぎが原因であるため、日頃からの予防とセルフケアが非常に重要です。
スポーツ時: 運動前後の十分なストレッチとクールダウンを徹底しましょう。
特に寒い時期は筋肉が硬くなりやすいため、ウォーミングアップが大切です。
また、フォームや用具のチェックも重要です。
日常生活: 雑巾絞りなど、肘に負担のかかる動作をする際は、短時間で休憩を挟む、両手を使うなどして、特定の肘への負荷を分散させましょう。
サポーターの活用: 痛みが慢性化している場合は、作業中だけでもサポーターを装着する習慣をつけると、悪化を防げます。
テニス肘は、適切な診断と治療、そして患者さん自身による地道なセルフケアで必ず改善に向かう疾患です。
もし肘の外側に痛みを感じたら、放置せずに早めに整形外科専門クリニックを受診し、治療を進めていきましょう。

